【中古】「終の住みか」のつくり方/集英社/高見沢たか子(文庫)
「終の住みか」のつくり方:穏やかな余韻と、胸に刺さる現実
高見沢たか子さんの「終の住みか」のつくり方、文庫版を読みました。中古で購入したという点も、この本のテーマと妙に合致しているような気がして、感慨深かったです。
終末期医療へのまなざし
この本は、タイトル通り「終の住みか」を作る、というよりは、終末期医療に携わる人々、そして、そこで最期の時を迎える患者さんたちの物語です。介護施設、病院、そして在宅での看取り。それぞれの場所で、懸命に生きる人々、そして、その人々を支える人々の姿が描かれています。淡々と、しかし力強く、そして時にユーモラスに、様々な場面が提示されます。 高齢化社会を反映した現実的な描写は、決して軽くはないテーマを、重苦しくすることなく読者に伝えています。
個々の物語が織りなす全体像
本書の魅力の一つは、複数の視点から描かれる物語の構成でしょう。一人の患者さん、その家族、医師、看護師、ケアマネージャー…それぞれの人生、そして考え方が丁寧に描かれ、読者は彼らの複雑な感情や葛藤を共有することになります。 それぞれの物語が独立しているようでいて、互いに複雑に絡み合い、全体として「終の住みか」とは何か、という問いへの答えを提示していく構成は見事です。 まるで、一つの大きなパズルを、様々なピースを繋ぎ合わせて完成させていくような、そんな読書体験でした。
現実と理想のはざまで
高見沢さんの描写は、決して理想化されたものではありません。医療現場の現実、限られた資源、そして、患者さんや家族の様々な感情の揺らぎが、リアルに描かれています。時には、制度の不備や、医療従事者の負担の大きさが露わになる場面もあり、読者としては胸が締め付けられる思いをする場面もありました。しかし、その現実的な描写だからこそ、この本が持つメッセージがより深く心に響いてきます。 理想と現実の狭間で葛藤する人々の姿は、私たち自身の未来を考える上で、重要な示唆を与えてくれます。
静かで深い余韻
読み終えた後、しばらくの間、この本の余韻に浸っていました。 それは、感動や興奮といった感情というよりも、静かで深い、そして少し切ない余韻です。 派手な展開やドラマチックな場面はありません。しかし、それぞれの登場人物の生き様、そして、彼らの言葉や行動一つ一つに、深い意味が込められていると感じました。 それは、まるで静かに流れる川のように、じわじわと心に染み渡るような、そんな読み応えでした。
誰にとっても大切な一冊
「終の住みか」のつくり方は、医療従事者だけでなく、高齢者やその家族、そして、私たち自身の将来を考える上で、非常に大切な一冊だと思います。 決して明るく楽しい本ではありませんが、読むことで、自分自身の生き方や、周りの人々への接し方について、改めて考える機会を与えてくれるでしょう。 中古で入手したこの本が、私にとって、まさに「終の住みか」を考えるきっかけになったことは、何かの縁だったのかもしれません。 この本を手に取ることを、強くお勧めします。
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