完全版　ピーナッツ全集　23 スヌーピー1995～1996 （完全版　ピーナッツ全集　全25巻） [ チャールズ・M・シュルツ ]

『完全版 ピーナッツ全集 23 スヌーピー1995～1996』感想レビュー

時を超えて輝く、シュルツの哲学とユーモア

チャールズ・M・シュルツによる伝説的コミック「ピーナッツ」の完全版シリーズ、その第23巻となる「スヌーピー1995～1996」を手に取った。この巻は、1995年から1996年にかけて発表された作品群を収録しており、シュルツの晩年に差し掛かってもなお、その鋭い観察眼と温かいユーモアは全く衰えていないことを証明している。ピーナッツのファンとしては、この「完全版」という冠にふさわしい、網羅的かつ丁寧な編集に心から感謝したい。未発表のスケッチや解説なども含まれていることが多く、単なるコミックの再録に留まらない、作品への深い洞察を与えてくれる。

1990年代後半の「ピーナッツ」：普遍的なテーマの再確認

1995年から1996年という時代背景を考えると、テクノロジーの進化や社会の変化が静かに進行していた時期である。しかし、シュルツが描く「ピーナッツ」の世界は、そういった外部の変化に左右されることなく、人間（そして犬）の本質的な悩み、喜び、そして成長を描き続けている。この巻に収録されたエピソード群を追っていくと、時代を超えて共感できる普遍的なテーマが浮き彫りになる。

ルーシーの自己肯定感とペパーミント・パティの成長

特に印象深かったのは、ルーシーのキャラクター描写だ。彼女の強気な態度の裏に隠された、時折垣間見える不安や、他者からの承認を求める姿は、現代社会においても多くの人が共感できる部分だろう。 psychiatrist（精神分析医）ごっこにしても、彼女なりの「大人」であろうとする試みであり、その不器用さが愛おしい。一方、ペパーミント・パティの、学業への苦手意識や、チャーリー・ブラウンへの淡い恋心など、思春期特有の揺れ動きも丁寧に描かれている。彼女の「男の子」のような口調と、乙女心とのギャップが、このキャラクターの魅力を一層引き立てている。

スヌーピーの自由奔放さと、シュルツのユーモアセンス

そして、もちろんスヌーピーの存在は欠かせない。彼の想像力豊かな世界（空想癖、作家としての活動、赤毛の男爵との空想上の戦いなど）は、読者に自由な発想と、日常の退屈さからの解放を与えてくれる。特に、タイプライターを叩くシーンや、ウッドストックとのコミカルなやり取りは、何度見ても飽きない。シュルツのユーモアは、単なる笑いを誘うだけでなく、人間の滑稽さや、人生の皮肉を巧みに織り交ぜており、読後に深い余韻を残す。この巻でも、その才能は健在であり、クスッと笑えるだけでなく、ハッとさせられるような洞察に満ちたギャグが随所に散りばめられている。

チャーリー・ブラウンの不屈の精神

そして、チャーリー・ブラウン。彼の、每一次の失敗にもめげずに立ち向かう姿は、まさに「不屈の精神」と呼ぶにふさわしい。野球で負け続け、凧揚げもうまくいかない、それでも彼は諦めない。その姿は、困難に直面したときに希望を見出すことの重要性を、静かに、しかし力強く教えてくれる。この巻においても、彼の健気な努力と、時折見せる悲哀が、読者の心を打つ。

「完全版」ならではの価値

この「完全版」シリーズは、単に過去の作品を網羅しているだけでなく、その時代背景や、シュルツ自身の制作過程に触れることができる資料としても価値が高い。解説やコラムを通じて、キャラクターたちの誕生秘話や、シュルツが込めたメッセージなどを知ることができるのは、ファンにとっては至福の体験だ。1995年～1996年という時期の作品群だからこそ、シュルツの晩年における円熟した世界観がより深く理解できる。

まとめ

「完全版 ピーナッツ全集 23 スヌーピー1995～1996」は、ピーナッツのファンはもちろんのこと、普遍的な人間ドラマや、温かいユーモアを求めるすべての人におすすめできる一冊だ。シュルツの描く世界は、時を経ても色褪せることなく、むしろ現代社会において、より一層その輝きを増しているように感じる。この巻を読むことで、私たち自身が抱える悩みや喜び、そして人生の些細な出来事の中に潜む、美しさや愛おしさを再発見することができるだろう。ピーナッツの集大成とも言えるこのシリーズは、これからも私の書棚で輝き続けるだろう。

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